液晶男。
カーテン越しの夏の朝の鮮やかな日差しで目が覚めた。そしていつものようにテレビのスイッチを入れた。この夏のボーナスで奮発して買った高精細ハイビジョン液晶テレビ32型だ。するとニュースキャスターが突然俺の名前を告げた。「昨夜8時頃、会社員佐々木大輔さん独身32歳が都内の某イタリアンレストランに女性といっしょに現れ、ふたりは仲むつまじく食事をされた模様です。そのスクープ映像を入手しました!」。すると相好を崩した幸せいっぱいの俺の顔が高精細ハイビジョン液晶テレビ32型の高コントラストの画面に映し出された。小さい頃からおふくろに幸運を呼ぶのよといわれてきた鼻の下の小さなホクロまでもが鮮明に見えた。間違いない、俺だ。高精細ハイビジョン液晶テレビ32型の高コントラストの映像に感心する余裕もなく俺は慌てた。確かに昨夜は以前から一方的に恋心を抱いていた総務部の山田さんと食事にでかけたが、芸能人でもない一般人のふたりがなぜニュースとして取り上げられるのか。しかも昨夜のデートはうまくいかず、山田さんは退屈して途中で帰ってしまったのだ。キャスターは依然きめ細やかな画面の中で今後のふたりの展開について勝手な解説をしている。昨日は少し飲み過ぎたのかもしれない。取る物も取りあえず、家を出て会社に向かった。バス停で並んでいるとポケットの中の携帯電話がメールの着信を告げた。地上デジタルテレビ放送のワンセグにも対応したワイド液晶画面の最新式だ。山田さんからのメッセージが届いていた。「佐々木クン、愛してる(*^)(^*)Chu!また食事に行きましょうね(^-^)v」と、美しい液晶画面に確かにそう書いてあった。本当に一体どうなっているのだ…。動転して汗が吹き出した。夏の暑さにちょっとまいっているのかもしれない。冷房の効いた電車に乗り継いでホッとしたのもつかのま、最新式の車両に設置されている色鮮やかな液晶モニター画面に目が釘付けになった。そこには「佐々木大輔さん、遂に婚約!お相手は総務部の山田さん!!」のタイトルが大袈裟に踊っていた。山田さんとのツーショット会見の映像といっしょに。もうこうなったら、夢でもウレシイ。駅の改札口をスキップしながら通り抜け、会社に急いだ。交差点の店先に最近設置された大画面迫力満点液晶モニターでは田舎で暮らす父親の顔がくっきり大写しになって「大輔、結婚おめでとー」と涙ぐんでいた。そのリアルな父親の映像にピースサインをおくりながら会社に飛び込み自分のデスクのパソコンを起動させた。すると瞬く間に、高輝度液晶ディスプレイが漆黒の闇を切り裂き、夏の朝の日差しのような鮮やかな光を放った…。大型液晶テレビをはじめ、パソコン、携帯電話、カーナビなど、この情報化社会でめざましい成長を遂げている液晶ディスプレイ。その中核材料ともいえる偏光板に「クラレのポバールフィルム」が使用されています。液晶表示の構造は、おおまかに言うと、液晶という物質を偏光板で挟んだ形になっているのですが、偏光板は光を通したり、遮断したりする役割をしています。その偏光板のベースフィルムに最適な素材として「クラレのポバールフィルム」が使用され、液晶ディスプレイには欠かせない存在になっています。そして現在、クラレはこの分野で世界シェアの多くを占め、今後の進化も大いに期待されています。しかし一方で私たちクラレは、多くの人たちが毎日見つめる液晶ディスプレイゆえに、悲しいニュースや痛ましい出来事ではなく、できればそこには、いつも人を幸せにする情報が映し出されることを、強く願っています。…カーテン越しの夏の朝の鮮やかな日差しで、会社員佐々木大輔さん独身32歳は目が覚めた。夢を見ていたようだが、どんな内容だったのか、思い出せない。いつものようにテレビのスイッチを入れた。ブラウン管には今日も地球のどこかで起こった不幸なニュースがどんよりと映っていた。眺めているうちに、ふと何故か無性に液晶テレビに買い替えたいと思った。
時代と、関係しています。クラレ
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