あなたを応援していたはずなのに、
気がつくと、
あなたに応援されている。
あなたのマラソンの足跡を振り返ってみました。6回連続優勝。女性ランナーで初めて2時間20分の壁を突破。当時の日本記録と、さらには世界記録を樹立。日本女子陸上界で初めてシドニーで金メダル獲得。史上最年少で国民栄誉賞受賞…。その道のりは華々しい活躍の連続でした。私たちはいつもあなたの走りに拍手を送りつづけてきました。しかし不思議でした。私たちはあなたを応援していたはずなのに、むしろ逆に、いつも私たちが励まされていたような気がしていました。何故でしょうか…。あなたの年表をもう1度たどってみました。1999年世界陸上、レース直前で棄権。2002年東京国際女子マラソン、ケガで断念。そして2003年、アテネの選考レース、東京国際女子マラソンでの失速、そして落選。光を失ったその時々、あなたはどのように感じていたのでしょうか?レース後の言葉を拾い集めてみました。初めての棄権の後、こう言っていました。「3ヶ月間、暗闇の中で、もがき苦しんだ」。そして2度目のケガの時、「暗闇で突っ立っていても始まらない。ここに何か潜んでいるかもしれない」。アテネ落選後は、「1週間たてば次のレースを前向きに考えられるようになった」。そしてまだ記憶に新しい2006年、東京国際女子マラソンで3位に終わった時はこう言い切りました。「北京を目指すと言った自分の言葉に責任を持ちたい。1回の失敗であきらめることはありません」。華やかなマラソン人生の陰にある挫折の歴史。しかしそれは、あなたの成長の軌跡でした。2007年晩秋、あなたにどうしても尋ねたいことがあり、ロッキー山脈で合宿を張るあなたを訪ねました。失敗を怖がらず、限界を恐れず、自分を追い込んで走るあなたに、走る意味を、あらためて問いたかったからです。あなたはこう答えてくれました。「常に目標を目指してやってきました。それは自分のためだけではなく、自分を応援してくれた人へのお返しであるとも考えてきました。どういう風に、返せるか。今は走ることしかない」。そしてこうつづけました。「今、世の中は、1回挫折したらそこでおしまい、と言われる風潮があります。しかしたとえダメでも、もう1度がんばったら、いいことがあるかもしれない。それをたったひとりの人でもいい。今苦しんでいる人がいたら、自分のレースで伝えたい…」。マラソンの起源は、古代、マラトンの戦いで兵士が勝利を伝えるために過酷な道のりを走ったと言われていますが、今その兵士とあなたの姿が重なって見えます。あなたも人に何かを伝えようと走っている。自らの走りで伝えようとしている。あなたはもはや単なるランナーではない、いわばメッセンジャーなのかもしれません。今日また、あなたの新しい年表を刻む号砲が名古屋の空の下に鳴り響きます。スタートラインに立つあなたからはまたきっと笑みがこぼれているにちがいありません。それは走る事が何よりも好きな喜び。それはどん底から這い上がってきた喜び。そして走る事で人に何かを伝えられるかもしれない喜び。そんなあなたを見る私たちもまた、期待と希望の喜びに、胸をときめかせているにちがいありません。
Creative Director + Copy Writer:松木圭三
Art Director + Designer:岸本克彦